視覚障がい者歩行サポートシステム(WM)Walk & Mobile

 

はじめに

 

 3年ほど前に日本が批准し、国連が承認した障害者権利条約の根本的な考えかたに”障害は個人ではなく社会にある”というものがあります。

社会の中に障害があるとすれば、私たちはその障害を少しずつでも克服していかなければならないと考えます。

 

 日本で約30万人いるといわれる視覚障害をもつ方々ですが、全盲の方はその内約10パーセントであり弱視のかたの方が多くなっています。

多くの方は一般に思われているよりも頻繁に外出しています。ただ、外出先は限られており、新しい場所に行くには同行者の同伴が必要になることが多くなります。同行者の確保は容易ではなく、かつ金銭的にも負担がかかります。

 

 本システムはその普及により、視覚障がい者がより多くの場所に、同行者なしで自由に移動できる社会環境を作ることを目指しています。

(アクセシビリティの向上)。

また、多くの視覚障がい者が街に繰り出すことにより、健常者の障害に対する認知を促し、障がい者のQOL向上と住みやすいまちづくりを目指します。

将来的には安価で誰でも使える歩行サポートシステムを世界的に広めること、また、視覚障がい者だけでなく他の障がい者や高齢者の移動支援の一助になればと思います。

 

<視覚障がい者の歩行支援>

 

視覚障がい者の移動支援技術には長い歴史があり、様々なものが提案されています。

特定の場所での音声案内スピーカーの設置や、ICタグなどのセンサーを使った歩行案内システム、GPSを使ったシステムの検討など、

多岐にわたります。ただ、導入コストや使い勝手の問題でその多くはあまり普及せずにきています。

 

また、点字案内板や点字シールなどによる案内(階段の手すりや電車のドア、券売機などに貼り付けられている)も様々な場所で見受けられます

が、中途失明の方は新たに点字を学習しなければならないというハードルがあります。

 

点字ブロックはそれらの中で稀有な存在で、現在、最も普及しているものといえます。

私たちは何気なく歩いていますが、注意してみると様々なところに点字ブロックを見ることができます。

歩道、信号手前、階段付近、エレベータ、バス停留所、駅の構内やホームなど、多くの場所に設置されています。

 

点字ブロックは元々、日本発の視覚障がい者向けのサインです。岡山県からはじめられた導入は今、日本だけでなく世界の様々な国々にも

広がっています。

 

<点字ブロック>

 

点字ブロックには2種類の形状があります。ひとつは誘導ブロック(縦長の長方形突起を配置したもので、歩行する上でのガイドとなる)

もうひとつは警告ブロック(丸い突起を配置してあり、何らかの警告・注意喚起を促すためのもの)です。

 

そして、この形状の違いそのものが、視覚障がい者が点字ブロックから得ることの出来る基本的な情報になります。

2種類の形状を、足裏の感触や白杖で感知し、安全に歩行できる(誘導ブロック)か、注意しなければならない(警告ブロック)か、

を判断します。

つまり、点字ブロックから得られる情報は基本的にはたった二つしかないのです。(注:配置の仕方によって特定の情報を表すこともあります)

 

横断歩道や分岐点、階段やエスカレータなどの手前には警告ブロックが設置されていますが、そのブロックだけからでは警告の具体的な内容は

判断できな いのです。

 

視覚が使える場合、例えば、ある警告ブロックが横断歩道の手前に設置されているのを見て、この警告ブロックが「横断の注意を促すために

設置されてい る」 ということがすぐわかります。

しかし視覚が使えないとき、その警告ブロックを感知しても、それが横断歩道のためのものなのかを判断するのは容易ではありません。

警告の内容を知るためには、ブロックの位置や配置、周囲の音や感覚、経験、記憶など様々な情報を使っての総合的な判断が必要になります。

  

<点字ブロックを活用したシステム>

 

既に広く普及している点字ブロックをもっと有効に活用できないだろうかと考えたのが、点字ブロックを使った本歩行サポートシステムです。

本システムは点字ブロックに情報を付加して利用するシステムで、歩行時のみならず日常の様々なシーンにおいて、使用者により多くの支援情報

を提供することを目的としています。